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  • 組木屋 上田

ペンローズタイルとは(その1)

・ペンローズタイル(Penrose tiling)とは、

平面を埋め尽くすタイリングのうち、周期的には並べられず非周期的にのみ充填される「強非周期充填」の代表的なもの。


発見当初は、数学的な遊びに過ぎないとも思われていたようだが、1984年にダニエル・シュヒトマンによって「準結晶」が発見され、その構造がペンローズタイルのパターンであったことから結晶学の分野で注目を集めるようになった。(ダニエル・シュヒトマンは2011年に準結晶の研究でノーベル化学賞を受賞した。それとは別に、ロジャー・ペンローズは2020年にブラックホールの研究でノーベル物理学賞を受賞している。)


「周期的には並べられず非周期的にのみ充填される『強非周期充填』」ということが、ペンローズタイルの最大の特徴なのだが、そのことを丁寧に説明している日本語のサイトが見つけられなかったので、組木屋なりの理解で書いてみることにした。


まずここでは、ペンローズタイルには「P1」「P2」「P3」と呼ばれる3種類がある、ということから説明していく。


・3種類のペンローズタイル(P1,P2,P3)

イギリスの物理学者ロジャー・ペンローズは、1972年ごろに正五角形など6種類のタイルを使った「P1(オリジナル五角形)」を考案し、その後タイルの種類を2個に下げた「P2(カイトとダート)」および「P3(2種類の菱形)」を順次考案した。

今では、ペンローズタイルといえば2種類の菱形を使った「P3」が一番よく見かけられるが、実は上記の3種類がある。(このことを説明している日本語サイトも全然見つからなかった。英語版のウィキペディアには詳しく書いてあるようなのだが、日本語版では触れられてもいない。英語が苦手な私には厳しい。。。)


・ペンローズタイル P1(オリジナルの五角形ペンローズタイル)

正五角形と星とボートとダイヤの形のタイル。基本形状としては4種類のタイルだが、「マッチングルール」まで考慮すると正五角形は3種類あるので、全部で6種類の「プロトタイルセット」で構成されている。


平面充填(タイリング)に使われる基本となるタイルのことを「プロトタイル」、その最小限のセットのことを「プロトタイルセット」という。


「マッチングルール」とは、タイルを並べるときの「接合方法を制限する規則」のこと。「突合せ条件」などと呼ばれることもある。この「マッチングルール」を規定することによって、非周期充填はできるが周期充填はできない「強非周期充填」になっている。

「強非周期充填」と「マッチングルール」は、ペンローズタイルを理解するために、とても重要な概念。


・強非周期充填におけるマッチングルール

2方向以上の並進周期性のあるタイリングを「周期充填(periodic tiling)」、そうでないものを「非周期充填(nonperiodic tiling)」という。

「周期充填」はできなくて、強制的に「非周期充填」となるものを「強非周期充填(aperiodic tiling)」という。

「強非周期充填」の代表的な例が「ペンローズタイル」である。

「強非周期充填」とするために設けられている条件を「マッチングルール(matching rules)」という。


ここで「マッチングルール」の大切さを説明するにあたり、まず上の右側の図を見ていただきたい。

ペンローズタイルP1の形を使って、周期充填(2方向の並進対称性のある充填)ができているが、実は赤線の部分でマッチングルールを破っている。このように、マッチングルールを無視すれば、周期充填をする方法は無数にある。つまりマッチングルールがなければ「強非周期」とはならない。逆に言えば、周期充填を封じるように巧妙にマッチングルールが定められている、ということ。


『「マッチングルール」のないペンローズタイルは「ペンローズタイルではない」』

のである。

『「肉」のないチンジャオロースは「チンジャオロースではない」』

みたいな感じで。


では、マッチングルールを守れば簡単に非周期充填ができるか、というとそんなに甘くもない。

上の左側の図は、ネットで見つけたP1の充填形をもっと広げたいと思って、手作業でタイルを追加していこうとしたもの。(5回対称となるように72°の範囲で検討。)図に一所懸命にマッチングルールの数字を描き込みながらタイルを並べようとしたが、赤丸の部分で行き詰まり、もうタイルを並べることができなくなった。

マッチングルールを守りながらでも、タイルを並べる方法は1通りではないため、どのタイルを並べようかと迷う場面が現れる。上図の場合、全然離れた矢印の場所で「ボート」を並べたことが間違いで、ここには「ダイヤ」を並べるべきだったのだが。


タイルを順番に並べる作業は、パズル的でとても面白いのだが、範囲が大きくなればなるほど飛躍的に難しくなる。ぜひ実際に試してみてほしい。「これ、本当に無限に並べることなんてできるの?」という疑問が頭をよぎることかと思う。


だが、「無限に並べられる」ことは保証されている。間違いなくできる、のである。

ではどうやったらできるのか?なぜできると言い切れるのか?


・膨張と収縮(細分割)と置換ルール(substitution rule)

上図の左側の黒線が、もともとの「P1 プロトタイルセット」で、これらのタイルの大きさを「基準サイズ」とする。

次に右側の図に示すように、もとのタイルの大きさを「φの2乗倍(φは黄金比)」した赤線のタイルを作り、その中にもとの基準サイズのタイルを詰める。各辺に凸凹があり、もとの形そのままではないが、2回り大きな自己相似的なタイルが得られる。


左の小さいタイルを並べて右の大きいタイルを作る操作を「膨張(inflation)」、逆に大きいタイルの内部を小さいタイルに分割することを「収縮(deflation)もしくは細分割」と呼ぶ。(「composition and decomposition」(組成と分解と訳せばよいのか?)と呼ばれることもあるよう。)

また、この「膨張収縮」の方法のことを「置換ルール(substitution rules)」や「置換充填(substitution tiling)」などと呼ぶよう。(他にも「hierarchical tiling(階層的充填?)」や「self-similar tiling(自己相似的充填?)」といった言葉も使われているようだが、英語が苦手で数学の専門知識もない組木屋には正確な定義や細かな違いがよく分からない。。。とりあえず組木屋では、サイズの違うタイルを得る方法を「置換ルール」と呼んでいる。)


なんにせよ、これでもう「非周期的に無限に並べることが可能」であることが示されている。

なぜなら、赤線タイルの中に入れた黒線タイルはマッチングルールを守っており、赤線のタイルにも同等のマッチングルールが成り立っているから。


実際に並べていく操作をしてみる。

まず「正五角形 a」からスタートする。基準サイズの青い正五角形aの周りには5つの正五角形b(灰色)と5つのダイヤ(黄色)が配置されている。これと同じように(180°回転した配置で)φの2乗倍サイズの赤いタイルを並べる。すると標準サイズのタイルの並びが広く決まっていく。またそれと同じようにφの2乗倍サイズの赤いタイルを並べる。また標準サイズの並びが広く決まる。・・・これを繰り返すことで、マッチングルールを守ったまま、非周期的に、無限に、タイルを並べていくことができる。


この操作は「星」からスタートしても良いし、その他のタイルからスタートしても良い。

「正五角形 a」もしくは「星」から作った充填形は5回対称(72°回転対称)図形となる。

(組木屋では、「正五角形 a」を中心とした5回対称の充填形を「表」、「星」を中心とした5回対称の充填形を「裏」と呼んでいる。その他に「輪」と呼んでいる10回対称(36°回転対称)っぽいけど非対称な充填形もあるが、説明が長くなるので詳しくは別の記事で。)


さらに、ここでは「φの2乗倍」の置換で説明をしたが、もっと一般的に「φのS乗倍(Sは整数)」の置換が可能。(これも話すと長くなるので、詳しくは別の記事で説明するつもり。)


さらにさらに、ペンローズタイルP1は、P2やP3やその他のタイリングから「相互に導出・変換」することもできる。


・MLD(相互に局所的に導出可能)なタイリング

「ペンローズタイル P1,P2,P3」は、タイルに上手いこと線を引くと、互いに変換(もしくは導出)することができる。このことを英語では「MLD(mutually locally derivable)」という。日本語に訳すと「相互に局所的に導出可能」ということになるかと。

あるプロトタイルセットの充填形から、別のプロトタイルセットの充填形を得る方法を、組木屋では「変換ルール」と呼んでいる。(「導出ルール」とした方が良いのかもしれないけど、日本語で説明している文献やサイトが見つけられなかった。)


上図は「ペンローズタイルP1」から「P2」を導出する方法のひとつを示している。

左図のように「P1」のプロトタイルセットに青線を描き込んで平面充填を行うと、右図の青線で示される「P2(カイトとダート)」の充填形が得られる。

導出・変換する方法は、タイルのサイズによっていろいろある。また、反対に「P2」から「P1」への変換も可能。

(この「MLD」という概念と「変換ルール」についても、詳しく話すと長くなるので、また別の記事で。)



ということで、次は「ペンローズタイル P2(カイトとダート)」について説明をしていこうと思ったが、すでにかなり長くなってきたので、(画像もけっこう重たいので、)続きはまた別の記事として書いていきます。




参考文献・URL

・英語版ウィキペディア「Penrose tiling

・英語版ウィキペディア「List of aperiodic sets of tiles

・マーチン・ガードナー著「別冊日経サイエンス マーチン・ガードナーの数学ゲームⅢ[新装版]」

・谷岡一郎著「エッシャーとペンローズ・タイル」

 など


関連記事

・「組木屋たいる」のまとめページ

・周期充填と非周期充填と強非周期充填

・マッチングルールとは

・膨張と収縮(細分割)と置換ルール

・MLDと変換ルール

・充填形の「表」と「裏」と「輪」

・置換および変換のサイズ「S」と「世代」

 などを順次書いていくつもり。



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