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  • 組木屋 上田

ペンローズタイルの仲間たち

まずは、すでに知られている3種類の「強非周期プロトタイルセット」を紹介して、そのあと、組木屋で考案したものを紹介していこうと思う。

上記の3種類の「プロトタイルセット」は、英語版のウィキペディア「List of aperiodic sets of tiles」「Penrose tiling」などにあったもので、英語が超苦手な組木屋では、図を見て何となく理解して、という感じなのだが、「強非周期充填(aperiodic tiling)」となる仲間たちです。

・ロビンソンの三角形(Robinson triangle)

・ヒトデとツタの葉と六角形(SIH: Starfish, Ivy leaf, Hex)

(「HBS: Hexagon Boat Star」と呼ばれることもある。)

・タイとナベット(TN: Tie, Navette)


「MLDクラス=ペンローズ」の仲間は他にもある(組木屋でもいくつも考案している)のだが、ネットで調べた限りでは、一般的に知られているのはこれらの3種類だけのようだった。


・ロビンソンの三角形(Robinson triangle)

4種類の三角形による「強非周期プロトタイルセット」である。三角形の形としては2種類なのだが、「強非周期」とするための「マッチングルール」を規定すると、線対称ではなく、裏返すと違うものになる。裏返したものを別のタイルであるとして、その4種類すべてを使って平面を充填をすることになる。


・ロビンソンの三角形の形状

2種類の三角形はどちらも二等辺三角形となる。頂角が36°の三角形(鋭角二等辺三角形)は「黄金三角形」として有名な形。頂角が108˚の三角形(鈍角二等辺三角形)は「黄金グノモン」と呼ばれる形。

「黄金比(φという記号で表される)」という値(無理数)には、非常に不思議で興味深いいろいろな性質があるのだが、その説明は割愛する。(数学者でもない組木屋には荷が重いので。)

(「K3短長比(β)」というのは組木屋で独自に置いた記号なので、いつかどこかでちゃんと説明するつもり。)


・マッチングルールと置換ルール

「ロビンソンの三角形」に関しては、「マッチングルール」を表記されているものがネット上でも全く見つけられなかったので、組木屋なりの理解で考案したものを示している。このルールで「強非周期充填となるのに十分か?」という疑問はあるが、まあいけてる、と思っている。(各二等辺三角形の底辺は強制的に表と裏とでしか接合できないので「P3」と等価となる、ということで証明になっているかな、と。)


上図の矢印で、4種類のタイルそれぞれのφ倍膨張の「置換ルール」を示している。他のペンローズタイルなどで置換をするときには凸凹が生じてしまうのだが、ロビンソンの三角形では、すっきりと過不足なく、まったく同じ形(相似形)のタイルが得られていて、気持ちが良い。


・「ロビンソンの三角形」と「P2,P3」との変換ルール

上図のように「ロビンソンの三角形」をいくつか組み合わせることにより、「ペンローズタイルP3」および「P2」が得られる。逆に言うと、「ペンローズタイルP3」および「P2」は、「ロビンソンの三角形」に分解することが可能。

組木屋で採用している「水色と黄色の円弧によるマッチングルール」が、ここで活躍する。「P3」「P2」に変換するときに「マッチングルール」はそのまま共通するものとして、すっきり綺麗に表せていると思う。


・ヒトデとツタの葉と六角形(SIH: Starfish, Ivy leaf, Hex)

次に3種類のプロトタイルによる「強非周期充填」を紹介する。

ヒトデとツタの葉と六角形(SIH:Starfish, Ivy leaf, Hex)と呼ばれることもあれば、六角形とボートと星(HBS: Hexagon, Boat, Star)と呼ばれることもある。結晶学の分野では「HBS tiling」と表記されていることの方が多いようなのだが、「ボート」と「星」は「ペンローズタイル P1」のプロトタイルと、形が違うのに名前が同じ、というのが紛らわしいので、組木屋ではとりあえず「SIH」と表記している。


「SIH」のマッチングルールは、図上段のように矢印で表される。このルールは、下段のようにラインで表しても全く等価となる。

下段の図は「SIH」のタイルを「P3」の菱形のタイルで、ルールを保ったまま分割している。つまりこの方法で「SIH→P3」の一意変換が可能。逆の「P3→SIH」はどうかというと、水色の丸が「核」になっていると考えると、これもまた「一意」に変換可能となる。


さらに、組木屋で考案した「K3」というプロトタイルセットに変換できることも示す。

「SIH」と「K3」とでは、タイルの数も変わらないので、「1:1で一意に変換可能」となる。(「P3」とは、タイルの数が変わるので「1:1」ではない。)

「K3」については、また別の記事で詳しく説明する。


・タイとナベット(TN: Tie, Navette)

次に「タイ」と「ナベット」という2種類のタイルによる「強非周期充填」を紹介する。

「タイ(tie)」というのは「蝶ネクタイ」みたいな形ということで、そう呼ばれる。

「ナベット(navette)」というのはもともとフランス語で、日本語で言うと「杼(ひ)」、英語で言うと「シャトル(shuttle)」を意味する。「杼(ひ)」というのも耳慣れない言葉かもしれないが、機織りで横糸を通すために使う左右に行ったり来たりする道具のこと。「シャトルバス」、「スペースシャトル」、バトミントンの「シャトル」なんかは、同じところを行ったり来たりする、という意味から派生したもの。


「タイ」と「ナベット」の形状を上図左に示す。辺の長さはすべて同じで、角度は72˚の倍数。

中央の図では、『「TN(タイとナベット)」を「P2(カイトとダート)」で細分割できる・・・②』ことを示している。この図は『谷岡一郎著「エッシャーとペンローズ・タイル」』という本で紹介されていたもの(の一部を再作図したもの)で、2007年に学術雑誌サイエンスに投稿された論文(SIENCE 2007 PETER J. LU AND PAUL J. STEINHARDT)からの引用らしい。(元の論文は読んでいません。)

さらに右の図では、「マッチングルール」を「ライン」で表したものと「矢印」で表したものを示している。(もちろん、ラインか矢印のどちらか片方で十分。)これらは、中央の図の「P2」のマッチングルールと矛盾がない、ということが大切。


次に上の図で、『「SIH」を「TN」で細分割できる・・・①』ことを示す。ここでも、「SIH」のマッチングルールと「TN」のマッチングルールとで、矛盾がないことが大切。

細分割の方法は1通りではなく、「ヒトデ」は5通り、「ツタの葉」は2通りに、細分割して変換する方法がある。(「六角形」はそのまま「ナベット」に対応。)したがって、「ヒトデ」に対応する部分と「ツタの葉」に対応する部分は、「マッチングルール」を守ったまま恣意的に入れ替えることができるので、「強非周期」でありながら無数の模様を作ることができる。

「TN」を違うサイズに「置換」する場合も1通りではなくなるので、「置換ルール」も1通りではなく複数考えられる。



実は、「TN(タイとナベット)」を「強非周期充填(Aperiodic tiling)」として紹介しているサイトや文献は、組木屋で探した限りでは見つけられなかった。英語版ウィキペディア「List of aperiodic sets of tiles」のリストの中にはなかったし、同じく「Penrose tiling」のページでも、「P1」の点を結んで得られる「非周期充填(non-periodic tilings)」の一つとして紹介されているだけのようだった。


しかし、『「SIH」を「TN」で細分割できる・・・①』ことと、『「TN」を「P2」で細分割できる・・・②』ことから『「TN」は「強非周期充填」である』ことが証明できる。(と組木屋では考えている。)


・「TN(タイとナベット)」が「強非周期充填」であることの証明


まず、「P2」と「SIH」は「強非周期充填」であることを前提とする。


「SIH」は「非周期的に無限に平面充填をすることができる」ので、『「SIH」を「TN」で細分割できる・・・①』ことより、『「TN」は「非周期的に無限に平面充填をすることができる」・・・①’』ことが言える。


次に、『「TN」は「周期充填ができる」』と仮定する。

すると『「TN」を「P2」で細分割できる・・・②』ことより、「P2」も「周期充填ができる」ことになる。

しかし「P2」は「強非周期充填」であり「周期充填はできない」。

したがって仮定が間違っており、『「TN」は「周期充填ができない」・・・②’』ことが言える。(背理法)


①’と②’より『「TN」は「強非周期充填」である』


以上、証明おわり。


・組木屋で考案したペンローズタイルの仲間たち

これまで「ペンローズタイル」とその仲間たちについて、けっこう詳しく説明してきたが、それは何故かというと、組木屋でも「MLDクラス=ペンローズ」のタイルをたくさん考案したのだが、その面白さを理解してもらうには、どうしても「ペンローズタイル」についても説明する必要があったので。

ということで、次回からは「組木屋たいるシリーズ」についての紹介記事を書いていこうと思う。

どれから説明していくとわかりやすいか、悩ましいところ。

最初に「形」を考案したのは「K2シリーズ」だけど、かなりややこしくて「強非周期」となるための「マッチングルール」を見つけたのはかなり後の方。

初めに「強非周期プロトタイルセット」として考案したのは「K3シリーズ」なので、「K3」から説明していこうかな、と思う。




参考文献・URL

・英語版ウィキペディア「Penrose tiling

・英語版ウィキペディア「List of aperiodic sets of tiles

・D. Frettlöh, E. Harriss, F. Gähler: Tilings encyclopedia, https://tilings.math.uni-bielefeld.de/

・マーチン・ガードナー著「別冊日経サイエンス マーチン・ガードナーの数学ゲームⅢ[新装版]」

・谷岡一郎著「エッシャーとペンローズ・タイル」

 など


関連記事

・「組木屋たいる」のまとめページ

・周期充填と非周期充填と強非周期充填

・マッチングルールとは

・膨張と収縮(細分割)と置換ルール

・MLDと変換ルール

・3種類の充填形「表」と「裏」と「輪」

・置換および変換のサイズ「S」と「世代」

 などを順次書いていくつもり。



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