- 組木屋 上田
ペンローズタイルとは(その3)
「ペンローズタイルとは(その1)」「ペンローズタイルとは(その2)」という記事で、ペンローズタイルの特徴、「P1,P2,P3」の3種類があること、「P1」について、「P2」について、「強非周期充填」「マッチングルール」「膨張収縮」「MLD」などの概念について、ざっと説明をし、最後に「P2」から「P3」を導出する方法を示した。
その続きで、「P3」について説明していく。
・ペンローズタイル P3(シンとファット)
現在「ペンローズタイル」として一番よく目にするのは、2種類の菱形タイルによる「P3(シンとファット)」だと思われる。ネットで画像検索すると「P3」のパターンが一番多く表示されるかと思う。
ネットで見られる、タイルを並べたパターン(充填形)を示した図では、マッチングルールが省略されていることが多い。上図では「マッチングルール」も重ねて表示したものを示した。どこもルールを破らずに充填されている。
(マッチングルールを破った並べ方をしたものでも「ペンローズタイル」として紹介されていることがしばしばあるので、注意して見てみていただきたい。)
2種類の菱形を区別するのに、英語で「細い」を意味する「シン(thin)」と、「太い」を意味する「ファット(fat)」で呼び分けるが、太い方は「シック(thick)」と呼ばれることもあるよう。
・「P3」のマッチングルールと形状
「マッチングルール」の表記方法は他にもいろいろあるのだが、上図のライン(円弧)は、いろいろな文献やサイトで見たものを参考にして、一応、組木屋独自で作った描き方で、「シン」の中央で2本の円弧が接するように設定している。
「P2(カイトとダート)」の黄金分割による美しいマッチングルールと比べると、円弧の半径が若干ややこしい数値になってしまうが、これはこれでなかなか面白いと思っている。水色の円弧で、小さな円がたくさん作られるのだが、この円の位置が他のプロトタイルセットに変換したときに、組木屋で「核」と呼んでいる位置に来たりする。(「K3」の記事を書くときに、もう少し詳しく説明する予定。)
上図の下側には、2種類の菱形の形状(寸法や角度)を示している。角度はすべて36°の倍数。辺の長さはすべて同じ。(「β」という記号は組木屋独自に置いたもの。これについても、またいつか別の記事を書く予定。)
・「P3」の φ倍膨張・1/φ倍収縮 置換ルール
「ペンローズタイル P1・P2」のところでも説明したが、「P3」も同様に「膨張・収縮(細分割)」という操作をして、サイズの違うタイルに「置換」することができる。
上図で、黒線のタイルのサイズを基準として考えると、青線のタイルのサイズはφ倍になっている。
これで「1:φ」の「置換ルール」を示しているが、一般的に「1:φのS乗(Sは整数)」の置換が可能。
・「P3」と「P1」の変換ルール
以下に「P3」と「P1」で互いに変換できること、さらにいろいろなサイズでできることを示す。
上図に「ペンローズタイルP1」から「P3」を導出する方法のひとつを示す。
「P1」のプロトタイルセットに緑線を描き込んで平面充填を行うと、右図の緑線で示される「P3」の充填形が得られる。
「P3」の辺長を「1」としたときに「P1」の辺長は「β」となっている。(「β」がここでも役に立つ。)
つまり、辺長の比でいうと『「P3」:「P1」=1:β 』の変換ができることを示している。
次に上図で『「P3」:「P1」= φ:β 』の変換を示す。
「P1」はそのままで「P3」をφ倍置換した充填形を重ねて表示したことに相当。
さらに上図で『「P3」:「P1」= φ^2:β 』の変換を示す。
このサイズで変換したときに、「P1」の星とボートとダイヤのなかの点(組木屋で「核」と呼んでいる点)と「P3」にマッチングルール(上図では省略しているけど)を描き込んだ時の水色円の中心とが1対1で対応することになる。
さらにさらに『「P3」:「P1」= φ^3:β 』の変換を示す。
要は「P3」をφ倍置換し「P1」と重ねて表示する、という操作を順番に繰り返したことになる。
ここまでくると、一般的に『「P3」:「P1」= φ^S:β (Sは整数)』という変換が可能だろうな、ということが見えてくる。
タイルのサイズを変える「置換ルール」と、別のプロトタイルセットに変える「変換ルール」とを組み合わせると、いろいろなプロトタイルセットの充填形を、いろいろなサイズで作図することができるようになって、便利。
ここまで「ペンローズタイル P1,P2,P3 」について互いに変換できる方法を説明したが、互いに変換可能な(MLDの関係にある)プロトタイルセットは他にもある。ペンローズタイルと互いに変換できる仲間たちを「MLDクラス=ペンローズ」と呼んだりする。
ということで、次は「MLDクラス=ペンローズ」の仲間たちを紹介する記事を書こうと思う。
参考文献・URL
・英語版ウィキペディア「Penrose tiling」
・英語版ウィキペディア「List of aperiodic sets of tiles」
・マーチン・ガードナー著「別冊日経サイエンス マーチン・ガードナーの数学ゲームⅢ[新装版]」
・谷岡一郎著「エッシャーとペンローズ・タイル」
など
関連記事
・「組木屋たいる」のまとめページ
・周期充填と非周期充填と強非周期充填
・マッチングルールとは
・膨張と収縮(細分割)と置換ルール
・MLDと変換ルール
・3種類の充填形「表」と「裏」と「輪」
・置換および変換のサイズ「S」と「世代」
などを順次書いていくつもり。
Comments