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  • 組木屋 上田

アオコクタン(青黒檀)


銘木図鑑の第11回。今回は、「幻の銘木」とも称される「青黒檀」について。

「黒檀の中でも最高級。組木屋最高評価(暫定)の超希少銘木」

アオコクタン(青黒檀)

【別名】マクルア、「幻の銘木」

【科目】カキノキ科 カキノキ属 広葉樹

【組木屋作品】メビウスの指輪、My箸(←非売品)

アオコクタン(青黒檀)評価

【評価】唐木三大銘木、黒檀の仲間。(その中でも最高級とされますが、その情報は錯綜している感じで、なにが正解なのかよくわからない。組木屋の記述でも間違いなどあるかもしれませんので、鵜呑みにはしないでください。)

「幻の銘木」とも呼ばれるくらい超希少。

「青黒檀」の定義は人によってバラバラですが、狭義にはタイ産のマクルア(学名:Diospyros mollis)一種のことを指すみたいです。(そうじゃない場合もあるので、後述します。)

非常に歩留まりが悪く扱いづらい材のため、昔は、流通量の多い縞黒檀と同じような値段がつけられていたようなのですが。

現在、産地のタイで伐採自体が禁止されているらしいので、タイ周辺にしか自生しない青黒檀は、市場にほとんど流通しておらず、今では時々端材が出るくらいで、しかも超高価になってしまった。

黒檀系が大好きな組木屋の評価としては、「ピンクアイボリー」の9.4点を超えて、史上最高の9.8点とします。たぶん、普通の木材でこれを超えるものはもうないだろうと思っています。

(ちなみに現在のところ、マグロ(真黒)は9.4点。ホンコクタン(本黒檀)は評価未確定。デザートアイアンウッドを9.4点、紅木とスネークウッドを9.2点としようかなという感じで思っています。あくまでも組木屋の独自評価ですが。)

【色・匂・味】加工直後、切断面および木屑は、緑がかった色をしていて、それが青黒檀と呼ばれる由縁。←たぶんこれが狭義の青黒檀(マクルア)の特徴だと思われます。

緑というよりは黄緑を深くしたような色。その深黄緑と黒の縞々のかなり細かい木目が美しい。

アオコクタン(青黒檀)木屑の色

ヤスリ(#100)での削りカス。深黄緑のような色なのが伝わるでしょうか。

時間がたつとほとんど真っ黒に変色していく。磨いていない切断面は深黄緑がそのまま濃くなっていく感じだが、磨くと緑がほとんど感じられなくなる。リグナムバイタ・パロサントほど色の変化は速くない。2・3日でも色が少し濃くなったなと分かるが、真っ黒になるまでは数か月から数年はかかりそう。完全には黒くならず、濃い黄茶色の縞が残る場合もある。

木肌は、道管が肉眼ではほとんど見えないほどで(ほかのコクタン系はだいだいはっきり見えるのだが、)その美しさは最強レベル。

匂いは普段は感じないが、熱が加わるとちょっと甘くて香ばしいような(カフェモカみたいな?)匂いがする。

味は無し。

【加工性】細かい割れが非常に多いため、まず木取りが難しい。指輪用に小さな材を取るだけでも、よほど注意して木取りをしないと、材のほとんどすべてがパー、なんてことになってしまう。「がらがらの木」を割れ無しで取り出せるような材には出会ったことがない(まさに幻)。歩留まりの悪さ、ダントツのNo.1と言えるでしょう。

写真(左)で見ると、下のほうに 太い割れがあって、その他に2・3本の細かい割れがある、という程度に思えるかもしれませんが、光にかざしたりして肉眼で見える割れをぜんぶ描きこむと(写真右)、実はこんなにたくさんの割れが。これでも「美材」として入手したものなんですよ。。。

初めから見て分かる割れは、木取りの時点で避けるのだが、加工が進んで研磨しだしてから見つかるようなさらに細かい割れもあったりするので、その時はかなり凹む(クラフターの心が)。これさえなければ硬さの割に加工しやすい(加工難度7)ぐらいですが、あまりにも細かな割れに苦しめられているので、加工難度9としてやります。

硬さとしては(鋸やドリルでの加工では)、マグロ(カメルーンエボニー)よりは柔らかくて、シマコクタンと同じくらいかな、という感じ。ただし、切削作業(ミニルータで削る作業)に限って言えば、かなり柔らかく(硬さ6ぐらいに)感じて、サクサク削れる。(削りすぎに注意が必要。)

繊維方向による差が少なく(1.2倍以下)、異方性がほとんどないので、ワックスを削っているような感覚に近い。

道管が肉眼で(私の視力では)ほとんど見えないので、木目が目立たない材では、繊維方向を把握すること自体が困難になる。初めに白マーカーで繊維方向を描き込んで、それを出来るだけ消さないように切削作業をしたり、という地味な苦労もしています。

木屑は、常温加工ではサラサラだが、油分が多いため、熱が加わるような加工ではもそもそとする。熱を加えると木屑と樹脂が固まって目に詰まるので、取りにくくなる。

【仕上】ヤスリは良く利くが、結構難しい。番手を飛ばさずに着実に磨くべし。じゃないと、何度も手戻りすることになる。

艶が出るくらい(400番くらい)まで磨くと、木目の緑色が目立たなくなって、深い黄茶色みたいな感じになる。(100番ぐらいで磨いた時が一番、緑色が鮮やかに見える。緑がかった色は、加工中だけの楽しみ。)

アオコクタン(青黒檀)色変化

比較的木目が目立つ材を、ヤスリ(#100、#400、#1000、#1500)で磨いた写真。丁寧に磨くと(時間がたっていなくても)段々と緑色が感じられなくなる。

青黒檀は、実際に切断加工をすれば、緑がかった木屑が出るので、他の黒檀と識別するのが容易だが、磨き上げた完成品や時間がたった材では見分けるのは難しい。研磨して間もなくだと縞黒檀の真っ黒に近いものや本黒檀とかの真っ黒ではないものと区別しづらいし(木目の細かさや色合いはだいぶ違うと思うけど、けっこう個体差がありそう)、時間がたって真っ黒になったものはマグロや本黒檀、アフリカンブラックウッドなんかとも区別しづらい。(道管がほとんど見えないというのは青黒檀だけだと思うけど、これも個体差がありそうなので。)

加工されてかなり時間がたっている(たぶん数十年)と思われる部分では、1cmぐらい深くまで黒くなっていたので、表面をちょっと削っただけでは、色で判別できないこともある。

ましてや、塗装・コーティングをされたものでは、専門家でも(切断しないで)識別するのは不可能なのではないかと思う。

アオコクタン(青黒檀)経年変化

大昔に切断されたと思われる面(写真下側)から1cm程度の深さまで、ほぼ真っ黒に変色していた。

メビウスの指輪は#1500まで磨いたが、もっと綺麗になりそうな潜在能力を感じる。(手間をかけすぎるわけにもいかないので、泣く泣く#1500まででやめておきます。)もちろん無塗装とします。

指輪(左)とMyお箸(右)。どちらも#1500まで研磨して無塗装のものですが、お箸は3か月ほど普通に(食器用洗剤でゴシゴシ洗ってるし、なにもメンテしないで)使用しているもの。普通のデジカメ+標準ズームレンズで8cmぐらいまで近寄って撮った写真。これが肉眼で見た感じに近いかと。お箸は、肉眼でも若干道管が見えます。(作ったときには、ほとんど見えなかったと思うのですが、段々目立ってきたのかな。)

デジタルマイクロスコープで、3cmぐらいまで寄った写真。

1cmぐらいまで寄って撮った写真。下にある目盛の間隔は1mm。お箸の上にはクラックスケールの0.06mm幅の線を当てています。指輪の方はここまで寄ってもどこが道管かよく分からない。

青黒檀についていろいろ調べていたら、加工時に緑がかった色が出るのは、「道管の中に、緑色の物質が詰まっている」からだ、といった記述がありました。数か月ごしごし洗ったお箸で道管がやや目立ってきたのは、その物質が道管から少しづつ流れ出てきたからなのかもしれません。

【その他】青黒檀は、お箸の材料として最高級品とされているよう。確かに上記のMyお箸は、無塗装で普通に使っていても、とっても良い感じ。Myお箸を作るとき、家族用として一緒に、スネークウッドとピンクアイボリーでも作ってみたのですが、スネークウッドも箸の材料として大変すんばらしいもので、むしろ青黒檀よりも水に強いように感じる。ピンクアイボリーは残念ながら無塗装では、水に濡れる用途には向かない、ということが分かりました。

銘木 箸

マイ家族箸。左からスネークウッド×2、ピンクアイボリー、青黒檀。

ちなみに箸置きに使っているのは「ラトルバック」。左から肥松、リグナムバイタ、パドウク、パオロッサ。 「ラトルバック」というのは大変興味深い不思議物体で、いつかそのうち記事を書きたいと思っていますが、その原理が難しすぎて理解できていないので、いつになることやら。

お箸の他には、三味線の糸巻き、木札、装飾工芸品、といった用途で使われていたりします。

材としての「青黒檀」の定義は、各人、各業者さん毎に結構バラバラな感じ。

希少な銘木を探していると「ワシントン条約で輸出入が禁止されている」といった記述にしばしば出会いますが、青黒檀と称する材に書かれている場合は要注意。

狭義の青黒檀も、確かにタイで伐採が禁止されているらしいのですが、「ワシントン条約で」ではありません。カキノキ科の植物でワシントン条約に記載があるのは、マダガスカル産のエボニーのみで、それも附属書Ⅱ(なので禁止ではなく制限)です。(経済産業省のWEBページで「ワシントン条約附属書(植物界)平成29年10月4日から発効」という資料を確認しました。タイの法律までは確認していませんが、信頼度の高い輸入木材業者さんのサイトに記述があったので、伐採禁止なのは確かだろうと思っています。)

つまり、「ワシントン条約」どうこうと記載されている場合は、マダガスカルエボニーやアフリカンブラックウッド(←マメ科ツルサイカチ属で附属書Ⅱ記載)まで含めて、かなり広い意味で「青黒檀」という呼称が使われている可能性があります。

組木屋で入手した材でも、加工してみたら(狭義の青黒檀とは)明らかに別物(たぶんアフリカンブラックウッド)だったこともあります。青黒檀という呼び名に明確な定義があるわけではないので、「高い授業料だった」と諦めて、文句をいったりはしませんが。。。

普通に販売されている「高級お箸」などは、ほとんどの場合、造膜系の塗装(漆、ウレタン塗装、ガラスコーティングなど)が施されているので、その表面特性はその塗装の性能によりますし、見分けもつかなくなります。ので、元の材種の細かな違いにこだわる意味はほとんど無い、と思いますが。加工している職人さんには、材種の違いは分かっているはず。たとえ販売しているのは別の人だとしても、あんまり広義に「青黒檀」の呼称を使うのは、ちょっと誠実さに欠けるのでは、、、とも思ってしまいます。

「木札」を作っている方々は、多くは無塗装、磨きのみで仕上げているようなので、WEBサイトなどで見ていても銘木への「愛」が感じられる記事が多く、青黒檀に関しても狭義の意味で使われているようです。

組木屋でも、比較的狭義にとらえて、加工時に緑色が感じられたものだけを「青黒檀」と表記することとします。

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