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  • 組木屋 上田

コウキ(紅木)


銘木図鑑の第15回。今回は、これまた希少で、三味線の棹として最高級材とされる「紅木(コウキ)」の紹介。

「高貴な深紅の高級銘木。カリン系の女王」

コウキ(紅木)

【別名】レッドサンダー、レッドサンダルウッド、コウキシタン(紅木紫檀)、コウボク

【科目】マメ科 (ツルサイカチ連)インドカリン属 広葉樹

【組木屋作品】メビウスの指輪、など

コウキ(紅木)評価

【評価】紅木(コウキ。コウボクと読まれることもある)は、三味線の棹の材として最高級とされています。三味線の業界では、紅木の中でも特に良質なものを”金細”、きれいな杢が出ているものを”トチ”などと呼んで、珍重されている(さらに値段が高くなる)ようです。

ワシントン条約の附属書Ⅱに記載されており、また産地のインドでも法的に保護されているので、今ではほとんど市場に出回らない希少材です。現在日本で流通しているものは、(想像ですが、)三味線を作る業者さんが昔から持っていた在庫から、棹として使用できないものを端材として出されたものや、古い高級家具・建材から解体再利用されているもの、なんかじゃないかと思われます。

別名で紅木紫檀と呼ばれることもあるようなのですが、紫檀はマメ科ツルサイカチ属、紅木はマメ科インドカリン属で、紫檀よりはカリン(花梨)に近い仲間です。まあ、別属とはいっても、すぐお隣さんの近縁の属なので、”間違いだ”というほどでもないとは思いますが。(それでも紛らわしいので、組木屋では紅木紫檀という名称は不採用とします。)

インドカリン属の木には、紅木、パドウク、花梨などがあるのですが、それらの中で紅木が一番重硬な材で最高級。

大変すんばらしい材ですが、指輪のような極小さいものを作るには、やや道管が太く目立つこともあり、組木屋評価としては9.2点としました。

【色・匂・味】鮮やかな赤から赤紫色、真っ黒に近い深紅まで、色幅は結構大きい。深い色のものや、杢(いい感じの模様)がでたものが、特にグレードが高くなる。

他のインドカリン属の木と比べると色の濃さは、コウキ(黒~深紅~赤)>パドウク(赤茶~赤~オレンジ)>カリン(赤~オレンジ)という感じ。それぞれ個体差が大きい材種なので、逆転しているものもあるが、紅木はあっさりと水に沈むくらい重いので、比重で区別がつく。

道管が割と太くて多く目立ち、板目方向から見たとき、うねうねと複雑に波打っているもの(交錯木理)が多い。木目(早材・晩材による縞模様)はほとんど見えないが、年輪とあんまり関係ない感じで鮮やかな赤と黒の縞が入る場合がある。木理(繊維方向による模様)は複雑で、縮み杢・リボン杢みたいな模様がでることがある。

経年変化で、色が濃くなっていく。”ほとんど真っ黒?”と思っていた古そうな材を切ってみたら、中からかなり鮮やかな赤が出てくることもある。

常温では、ほとんど匂いはしないが、熱を加えた場合とか細かな木屑が舞った場合に、甘くて若干酸っぱいようなカリン系の匂いがする。

味は特にしない。

コウキ(紅木)指輪

【加工性】めっちゃ硬い。組木屋での硬さ評価は9で、リグナムバイタ、キングウッド、ペルナンブーコ、本黒檀、ピンクアイボリーなどと同等程度。

繊維方向の硬さ(ルータビットで削れる速さ)の差は1.5~2倍程度。繊維を多少強く感じて、ゴリゴリとした手ごたえがある(特別強くはない)。逆目でも毛羽立つことはほとんどないが、繊維と直行方向に加工するときに若干欠けやすい。

木屑は基本的には、さらさらしているが、ドリルなどで(硬くてなかなか刃が進まないから)熱が溜まってくると、目に詰まってなかなか取れないようになる。木屑の色は、赤というより、濃い朱色。加工時に木屑で、服やら肌やら爪やらが朱色に染められる。肌に付いた分は洗えばすぐに落ちるけど、爪に付いた色が意外となかなか落ちない。昔は、この木から染料が作られていたこともあるらしい。

【仕上】道管が割と太くて目立つのだが、それを差し引いても余りあるくらい素晴らしく綺麗に仕上がる。

コウキ(紅木)磨き

上の写真は、立方体にして本気で磨いてみたもの。上が板目面、右下が柾目面、左下が木口面。丁寧に磨いたら、白いラインが反射して映り込むぐらい、ツルッツルのテッカテカになりました。これ、無塗装ですよ。

デジタルマイクロスコープでの拡大写真。左上から、板目面、柾目面、木口面、クラッススケールを当てた板目面。道管は特に太いもので、0.2mmぐらいな感じ。

左は普通のデジカメで出来るだけ寄って撮った写真。これが肉眼での見え方に近いかと。右のは、デジタルマイクロスコープでさらに寄って撮った写真。上は柾目方向に木取りして作った指輪で、下は木口取りしたもの。木取りの方向で、道管の見え方がかなり違います。

塗装をすれば道管をもっと目立たなくすることも可能でしょうが、なんかもったいないので、指輪は無塗装、研磨のみの仕上げにしました。

【その他】「紅木」という表記に関して、中国語ではかなり違う意味になるので注意が必要。

中国での「紅木」は、日本でいうところの紅木(レッドサンダー)以外にも、同じ属の花梨、マメ科ツルサイカチ属の紫檀、マメ科センナ属のタガヤサン、マメ科ミレシア属のウェンジ、カキノキ科カキノキ属の黒檀、などをひっくるめた総称として使われているらしい。(もともとは、さらにもっと広義に使われていた言葉で、近年協議して絞り込んで、この状態らしい。)

さらに中国では、日本でいうところの紫檀の仲間(マメ科ツルサイカチ属)を「黄檀」、紅木の仲間(マメ科インドカリン属)の材を「紫檀」と表記するらしい。(なんて、ややこしいんだ。)

和楽器である「三味線」と同様に、中国の伝統的な楽器である「二胡」でも紅木は最高級材とされるようなのですが、日本での呼称と中国での呼称の違いをもろに受けているため、独自ルールの呼び名がいろいろあって、わけがわかりませんでした。(ちょっと調べて把握しようかと思ったのですが、すぐにギブアップしました。)

三味線業界でもけっこう独自ルールがあって、複数の樹種に対して「○○紅木」といった表記が使われていたりするので注意が必要です。(が、こちらもちょっと調べたぐらいでは、結局何が正解なのかよくわからなかったので、ここで中途半端に説明することは控えさせていただきます。)

組木屋では、マメ科インドカリン属の、水に沈むくらい重硬な、赤黒い、レッドサンダーとも呼ばれる材、のことを「紅木(コウキ)」であると認識します。

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