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  • 組木屋 上田

スタビライズドウッドとハイブリッドウッド


銘木図鑑の第19回。元々高価な杢材にさらに加工を施した、「スタビライズドウッド」(および「ハイブリッドウッド」)を紹介します。

「木の質感を生かしたまま、天然には無い綺麗な色を付けた、安定化木材」

【別名】Stabilized wood・Stabilize wood・Stabilizing wood など、英語表記にはいろいろあるようで、統一されていないよう。日本ではだいたいカタカナで「スタビライズドウッド」の呼び名で統一されているようです。カタカナではない日本語訳を見たことがありませんが、無理やり訳すとしたら「安定化木材」かな、と。(単なる直訳ですが。)

【樹種】いろいろな樹種から作られているが、色が白っぽく、硬さが中程度で、杢の出やすい樹種が多い。

1枚目の写真:後ろの角材、左から、トチ(トラ杢)、カエデ(チジミ杢)、ソフトメイプル(バール)。中央右の小さい角材2枚、ハードメイプル(バール)。2枚目の写真:樹種不明のバール材。

【組木屋作品】メビウスの指輪、ハーツ(4U)、開く蝶々、イヤリング、ネックレス、など

【スタビライズドウッドとは】簡単に言うと「樹脂を浸み込ませて安定化した木材」のこと。「Stabilize」というのが英語で「安定させる」「固定させる」といった意味になります。

ここでいう「樹脂」とは、人工的に造られた「合成樹脂」のこと。

作り方としては、木材を粘性の低い(シャバシャバの)樹脂に浸した状態で、真空ポンプなどで空気を抜いて、樹脂を木材の中まで浸透させ、その後硬化させる、という方法らしいです。

元々は、あまり強くない木材を強くしたり、ひび割れなどを埋めたり、湿気に強くしたり、といった意味合いの技術だったのだろうと思われます。

樹脂に着色料を混ぜて浸み込ませることにより、木材の内部にまで色を付けることができて、しかも、元々の木の模様、木目や木理、杢を消さずに、質感もあまり大きくは変わらないので、元からカッコイイ杢の木にさらに着色する目的で作られていることが多いようです。

【ハイブリッドウッドとは】2枚目の写真のように、元々の木の部分と、樹脂だけの部分とがくっついているようなものは、「ハイブリッドウッド」と呼ばれていることがあります。木の部分まで樹脂が浸み込んでいるものもあれば、そうでないものもあります。「スタビライズドウッド」と「ハイブリッドウッド」とは、あまり明確に分けられていないこともあるようで、どちらも「スタビライズドウッド」と表記されていることの方が多いかもしれません。(厳密にいうと、木材部分に樹脂を浸み込ませていないものをも「スタビライズドウッド」と呼ぶのは、間違いのような気もしますが。)

木材部分に浸み込ませいないものに関しては「ウッドレジン」という呼び方もよく使われているようです。

(レジン「resin」というのが、英語で「樹脂」のこと。)

写真の「ハイブリッドウッド」はまだ加工をしていないので、以下の記事はすべて「スタビライズドウッド」についてのものになります。「スタビライズドウッド」についても、まだ組木屋で加工したサンプル数が少ないので、あくまでも参考程度にお考えください。

【評価】さまざまな樹種から作られているし、浸み込ませる樹脂の種類によっても違ってくると思われるので、一概にはいえないのですが、組木屋で入手・加工してみた経験から、ざっくりと評価しますと、

硬さ:±0~+1程度

加工難度:-1~-2

木肌仕上:+1~+2程度

色・木目:10

材料価格:9以上

という感じかと。(+とか-で書いているものは、元の樹種に対しての評価)

総合評価としては、全部9以上。それぐらい良いなと思った材しか購入していないので。

【色・匂・味】組木屋で入手した材は、青系ないしは青緑系の色ばかりですが、実際はさまざまな色のものがあります。赤・黄・オレンジ・紫・茶・黒、などなど。なかには、2色とか3色が混ざったものなんかも。ただ組木屋では、せっかく着色されているのだから出来るだけ天然の木材では無いような色合いのものを優先的に、と思って入手しています。

色を内部まで浸み込ませるのはなかなか難しいらしく、材を切ってみたら中央部までは色が付いていないこともあったりします。(大きな材や、密度の高い材ほど、樹脂が中まで浸透しにくいよう。)

「スタビライズドウッド」制作後に半分に切断して販売されているものはほとんど大丈夫だと思いますが、そうでない場合、ある程度の覚悟をして購入する必要があります。(たとえ、内部がごっそりと色が付いていなかったとしても、たいていの場合、返品はできません。)

上の写真は「(仮称)楕円ハート」という作品。ハードメイプルのバール(瘤)材から作成したもの。青と緑の2色を含浸させているが、瘤のブツブツ部分には色が付かずに元の色が残っています。これもまた、「スタビライズドウッド」の味であると理解します。

次の写真は、材の断面に未着色部分が見られるもの。この色の残り方は、ちょっと残念ではありますが、「しようがないこと」と理解します。

加工中、木の匂いはほとんど感じられず、樹脂を削っているときの匂いだけを感じる。

味は特にしません。

【加工性】硬さとしてはほとんど変わらないか、若干硬くなっているかな、という程度。初めて加工するときには、もっと硬くなっているものかと想像していたが、ソフトメイプルはやっぱりソフトメイプルで、ハードメイプルみたいになっている、ということはなかった。

しかし、異方性・不均一性が少なくなっているため、元々の樹種よりもだいぶ加工しやすくなっているように感じる。(加工難度に対する、異方性の影響が大きい、ということを実感する。)

【仕上】表面が粗い状態だと、白っぽく見えているが、目の細かいヤスリまで丁寧に磨くと、深い色に変わっていく。400番・600番ぐらいまで磨いてもまだ白っぽく、1000番・1500番ぐらいまで磨くと一気に深みが増していく感じ。

「メビウスの指輪( ハードメイプル バール材)」は、頑張って磨きのみ(無塗装)で仕上げています。 「これが本当に木なの!?」って思ってもらえるぐらい、すんばらしく魅力的だと思います。(※個人の感想です。)

ネットで販売されている材は、たいてい湿らせた状態で写真が撮られています。これは「丁寧に磨いたら、だいたいこんな見た目の色合いになりますよ」ということで、実物を乾いた状態で見ると「写真と全然違うじゃん」と感じられることが多いと思います。

湿らせた状態の写真と同じような見た目になるところまで(磨きだけで)仕上げようとすると、かなり丁寧に磨く必要があるので、ネットで「スタビライズドウッド」を購入するときは、このことを知った上で購入をするように気を付けましょう。

上の写真のイヤリングとネックレスは、その奥の小さな角材( ハードメイプル バール材)の共木から制作し、磨きのみ(無塗装)で仕上げたもの。シンプルな形ですが、かなりの手間がかかってしまいました。

クリア塗装などをすると、表面の微細な凹凸が消されるので、そこそこの磨きでも深い色(いわゆる濡れ色)にすることもできますが。

上の「開く蝶々」は、ソフトメイプル(カーリー・スポルテッド)。右側の薄板は残った端材。蝶々の形を磨きのみ(無塗装)で仕上げるのは、あまりにも大変そうだったので、ちょっと妥協して蜜蝋クリームを塗って仕上げました。

【その他】「スタビライズドウッド」の用途としては、他の高級銘木(スネークウッドやデザートアイアンウッド)と同じく、ペンブランクやナイフグリップといった趣味の小物に使われていることが多いようです。その他には、MOD(モッド)と呼ばれる、喫煙具の改造パーツの素材として人気があるようです。また、水に強くなる性質を生かして、釣り道具(ランディングネットのグリップ)などにも使われているよう。

「スタビライズドウッド」の材は、海外、特にアメリカでは割と認知度も高く、けっこう制作販売されているらしいのですが、日本では、まだまだ需要が少ないため、国内で制作販売されているところはごく少ないです。(私の知る限りでは3か所。全部ネット販売。)他には、海外で制作されたものを個人輸入した人が、たまにネットのフリマなどで販売していたりするぐらいかと。

とても魅力的な材だと思うので、もっと多くのものが流通するようになって、価格も下がってくれたら嬉しいのにな、と思います。

「スタビライズドウッド」の制作には真空ポンプが必要ですが、その他に特に大掛かりな装置が必要なわけではなく、なんとか個人レベルでも制作可能なようです。がしかし、実際に作るとなると、内部まで着色料を含浸させるのが難しかったり、硬化させる過程にも工夫が必要だったりと、いろいろな問題があり、かなりの試行錯誤とノウハウの蓄積が必要なようです。

組木屋でも、自作してみたいなという興味はあるのですが、ちょっと調べた限りでも決して簡単なものではないなと。今のところは、誰かが上手に制作してくれたものを有難く購入させていただきたいという所存でございます。(まさに他力本願)

「ハイブリッドウッド」「ウッドレジン」の方は、真空ポンプなどの特殊な装置がなくても、ある程度のものが自作できるようなので、アクセサリーの用途でしばしば使われているようです。(これも組木屋では制作したことはないので、その難易度は計り知れませんが。いつか小さなもので試してみたいなと、そこはかとなく思っております。)

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